事実誤認。


(大変恐縮ですが、両方のクリックをして頂けるとありがたかったりします。)
さて、前回は弁護団の控訴の趣意の一つ目についてお話ししました。
訴訟手続きの法令違反…。
正直、この手の法律論の主張は、まず通らないと思った方がいいでしょう…


しかし、弁護団の主張はこれだけではありません



と、言うか現実問題として、もう一つ目の〝事実誤認〟の方が一番の主張でしょう


だって、〝佳苗ちゃん〟は一貫して、
『犯人は、私じゃナッシー


って、仰っているんですから。(笑)
なのに、一審判決は『犯人は、佳苗ちゃんだナッシー




そして、いよいよ控訴の趣意の〝メインディッシュ〟である事実誤認の主張に移って行きました



結論から言ってしまうと、極めて素晴らしい主張だった、と言う事です


では、一体何がどう素晴らしかったのか


その点を、お話ししますが、ここからは前回同様おもいっきり法律的な話になって行きますが、是非ともお付き合い下さい



まず、神山先生は過去の最高裁判所の判例を持ち出して来ました


多分、この時点で裁判とかに全く縁がない人は、〝最高裁〟〝判例〟と言う言葉で意味が分からなくなっているでしょう…(笑)
なので、簡単に説明すると、最高裁判所は司法権を担当する司法における最高機関で、全ての裁判所は、最高裁判所の下に置かれ、唯一の終審裁判所として、上告及び特別抗告について裁判権を持つ。
詰まり、その字の如く、日本で最高の裁判所で全国に一つしかありません



ここを頂点として、ピラミッド型になっているのです。
そして、この最高裁判所で作られるのが〝判例〟で、判例は、「先例」としての重み付けがなされ、それ以後の判決に拘束力を持ち、影響を及ぼす。その根拠としては、「法の公平性維持」が挙げられる。つまり、「同類・同系統の訴訟・事件に対して、裁判官によって判決が異なることは不公平である」という考え方である。
(※参考文献 ウィキペディア)
詰まり、基本的には最高裁判所の判例に、一審や控訴審の判決が倣うようになっているのです。
簡単に言うと、最高裁判所が日本で一番偉くて、そこで色々な判例が作られて行き、高裁や地裁がその判例を一つの目安とする、と覚えれば良いかと思います


さて、話は戻りまして、神山弁護人は過去の最高裁判例を幾つか持ち出して、その判例と〝佳苗ちゃん〟一審判決とを照らし合わせて、『一審判決の事実認定はおかしい





その中でも、ボクが〝実に素晴らしい



神山弁護人の、事実誤認の主張の中で平成22年の最高裁判例が出て来たのですが、それは、
『状況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するというべきである』
と、言う判例を引用して来ました


この判例は、有名な『平野母子殺害事件』の最高裁判決の一部で、状況証拠によって事実認定をする際の新たな基準となった画期的な判決なのです



この事件は、被告人の夫に〝死刑〟が求刑されていましたが、紆余曲折の末、平成24年3月15日に差し戻し審の大阪地裁で〝無罪〟判決が下されました


実は、ボクはこの判例を神山弁護人が読み上げた時、『あ~、あの判例かぁ




それは何故かと言うと、ボクが東京拘置所の独房に居る時、冤罪事件の請負人である『今村核(いまむらかく)』弁護人が上梓した、『冤罪と裁判』と言う書籍を読破したからです


いかんせん、身柄を拘束された経験がある方なら分かると思いますが、勾留中はスマホでサクサクっと〝ググる〟なんて出来ませんから、情報源は専ら『本』のみなので、ボクはその手の本はかなり読み漁りました


そんな中で出合ったのが、前記の『冤罪と裁判』と言う書籍で、ボクは穴が開くんじゃないかと思う位刮目して読みました


その中に、前記の事件の概要から最高裁の判例まで解説してあったので、ボクの、容量が極めて少ない〝脳内メモリー〟にインプットされていたのです



さて、前記の最高裁判例、意味分かりますか


もう一度記すと、
『状況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するというべきである』
です



どうでしょうか


『あ~、分かる分かる』と、思った方は実に頭の良い方です



と、言うか、何で裁判所の判決ってこうも回りくどいと言うか分かりづらい言い回しをするのでしょうかね


ボクは、つくづくそう思っていますよ


これ、間違いなく〝裁判あるある〟でしょう。(笑)
では、この実に分かりづらい判決を解説すると、状況証拠のみで犯人性を認定するためには、①被告人が犯人だとすれば全ての状況証拠を矛盾なく説明出来るだけでは足りず、②被告人が犯人でないとすれば状況証拠を説明しえないことが必要であり、他の仮説によってもそれらが説明可能ならば、被告人が犯人であるとの証明はされていない、というものです。(参考文献 冤罪と裁判)
これで、何となくはご理解頂けたのではないでしょうか


ここで、何度も出て来る〝状況証拠〟と言う言葉、これもまたこのテーマだけで余裕で一冊の本が書けてしまう位奥が非常に深いので、次回分かり易く解説したいと思います。
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